東京地方裁判所 昭和59年(特わ)61号 判決 1984年5月09日
裁判所書記官
萩原房男
本店所在地
東京都千代田区神田須田町一丁目二四番地
株式会社東名旅行
(右代表者代表取締役高畑保春)
本籍
東京都品川区南品川五丁目一五三八番地
住居
同都荒川区西日暮里六丁目二五番七号
会社役員
矢野徹
昭和一一年一月四日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は審理し、次のとおり判決する。
主文
一 被告人株式会社東名旅行を罰金一三〇〇万円に処する。
二(1)被告人矢野徹を懲役一〇月に処する。
(2)この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社東名旅行(以下被告会社という。)は、東京都千代田区神田須田町一丁目二四番地に本店を置き、旅行あつせん等を目的とする資本金一六〇〇万円(昭和五六年九月二一日以前は四〇〇万円)の株式会社であり、被告人矢野徹は、被告会社の代表者として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人矢野は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、各種旅行のあつせん手数料収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、
第一、昭和五四年一一月二一日から同五五年一一月二〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三四四七万六九二六円(別紙(一)修正損益計算書参照)あつたにかかわらず、同五六年一月二〇日、東京都千代田区神田錦町三丁目三番地所在の所轄神田税務署長に対し、その所得金額が零で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五九年押第三四五号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一二六五万七〇〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ、
第二、昭和五五年一一月二一日から同五六年一一月二〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九五五二万二一三三円(別紙(二)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、同五七年一月二〇日、前記神田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一二四七万八九三八円でこれに対する法人税額が三六六万一八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三八五四万〇三〇〇円と右申告税額との差額三四八七万八五〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れたものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告人の(イ)当公判廷における供述
(ロ)検察官に対する供述調書三通
一 堀博志、岡澤ひろ子、山本幸江、黒岩昭春、竹節寛人、児玉幸康、野村博、竹節洋司の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の左記調査書
(イ) バス代手数料調査書
(ロ) あつせん手数料(スキー会員募集)調査書
(ハ) 給料手当調査書
(ニ) 福利厚生費調査書
(ホ) 交際接待費調査書
(ヘ) 雑費調査書
(ト) 雑収入調査書
(チ) 役員賞与の損金不算入額調査書
(リ) 交際費等の損金不算入額調査書
(ヌ) 事業税認定損調査書
(ル) 繰越欠損金の当期控除額調査書
一 東京法務局登記官作成の商業登記簿謄本六通
判示第一の事実につき
一 収税官吏作成の出張費調査書
一 押収してある法人税確定申告書(昭和五五年一一月期)一綴(昭和五九年押第三四五号の1)
判示第二の事実につき
一 収税官吏作成のあつせん手数料調査書及び減価償却超過額調査書
一 押収してある法人税確定申告書(昭和五六年一一月期)一綴(同押号の2)
(法令の適用)
一 罰条
(一) 被告会社
判示第一の事実につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一項
判示第二の事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一項
(二) 被告人
判示第一の事実につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条一項、裁判時において改正後の法人税法一五九条一項、(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)
判示第二の事実につき、法人税法一五九条一項
二 刑の選択等
(一) 被告会社につき、それぞれ法人税法一五九条二項を適用
(二) 被告人につき、それぞれ懲役刑選択
三 併合罪加重
(一) 被告会社につき刑法四五条前段、四八条二項
(二) 被告人につき、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(重い判示第二の罪の刑に加重)
四 刑の執行猶予
被告人につき、刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、昭和四五年一〇月旅行あつせん業を目的として設立された被告会社においてその代表取締役であつた被告人が右会社の昭和五五年一一月期及び同五六年一一月期の二事業年度につき旅行あつせん手数料収入の一部を除外するなどの方法により総額四七五三万円余りの法人税をほ脱したという事案であり、そのほ脱額は著しく高額とはいえないが、そのほ脱率は昭和五五年一一月期において一〇〇パーセント、翌五六年一一月期において九〇パーセント余りと高率であつて、被告人の納税意識の稀薄さが顕著である。しかも、脱税の手段・方法をみると、旅行あつせん手数料収入を圧縮するため、架空の旅館宿泊代金や架空の預り金を計上し、これらに見合う証憑書類も整えるなど計画的かつ巧妙であり、その態様は悪質といわなければならない。
しかしながら、反面被告人は、本件が国税局により摘発されてからは、一貫して素直に事実を認めて深く反省し脱税額については修正申告のうえ、本税及び地方税等を納付しており、昭和五八年一〇月に代表取締役を辞任して妻の父をあらたに代表取締役に迎え、経理担当の取締役を置き、公認会計士を監査役に迎えるなどこれまで被告人が独善的に行つてきた経理及び経営の姿勢を改めており、再犯の虞れも少いと認められることなど被告人のため斟酌すべき事情も認められるので、被告人に対してはしばらく刑の執行を猶予するのが相当である。
よつて、主文のとおり判決する。
(求刑、被告会社につき刑金一六〇〇万円、被告人につき懲役一〇月)
出席検察官 三谷紘
弁護人 和田衛
(裁判官 小泉祐康)
別紙(一) 修正損益計算書
株式会社 東名旅行
自 昭和54年11月21日
至 昭和55年11月20日
<省略>
別紙(二) 修正損益計算書
株式会社 東名旅行
自 昭和55年11月21日
至 昭和56年11月20日
<省略>
別紙(三)
税額計算書
<省略>
<省略>